5 原石の厳しい検査
  硯の頁トップ みなせH.P.トップ

 旧坑口と新坑口の坑口間の距離(20メートル位)を既に越えて、旧坑と呼ばれている採掘跡の下を掘り進まれている採掘現場が延びていきます。
 
 旧入口時代に掘り進まれた
  有名な大西洞、
  その下部にある旧入口からの採掘最深部の水帰洞、
  更に水帰洞を下層まで掘り進み、
旧入口からでは、満足できる石層が見つけにくくなっていました。

 新坑口から掘り進むことで、
 水帰洞より一段と深い層まで辿り着き、旧の大西洞や水帰洞の秀石に引けを取らない石層との再会に成功したのです。
老坑内

老坑内

 坑の壁面でも足元でも天井でも、どの部分にも、老坑水岩の層が点在しています。
老坑内

老坑内


 これはと思える部分を、熟練職人がノミで掘り進みます。
 露頭している原石が、
  どちらの方向に、
  どれだけ伸びているのか、
  どれだけ広がっているのか、
一打ち一打ちノミ趾の様子を確かめながら慎重に掘り進みます。

 良質の原石が認められる方向へ、 自由自在に、
そして慎重に慎重に掘り進みます。
 坑道は強固な岩ですので、よほどのことでもない限り崩落する恐れはありません。

 老坑を採掘するにあたって、
削岩機などの機械を利用しないのは、その振動で原石にひびが入るからだと誤解している人たちも沢山います。
 これは大きな誤解で、
中国の正規輸出機関が老坑として世に出す硯の原石は、削岩機の振動ぐらいで、ひびが入るような石層は使用しないのです。
 
 原石は頁岩ですから石層に沿ってはがれやすいのは承知の上、
  はがれるものは徹底的にはがす、
  割れる恐れのあるものは徹底的に打撃を与えて割ってしまう、
そうです。
 地上に運び上げられた原石がどんなに厳しい検査を受けているか、 それを少しでも見る機会を持った人なら、 削岩機の振動なんか比べものにならない激しい打撃を、槌で、原石に与える、更に、ノミを石層の境界部に激しく打ち込む、それで割れたり、ひびが入ったり、 裂けたりするような原石は全部廃棄されていく、その厳しさに驚きを隠せない、ある種の感動さえ覚えるはずです。
 削岩機などの機械で、折角の原石にひびが入ったり、
壊れたりする、と考えるのは、
その検査に耐えて残る原石のすばらしい石質を、
充分理解していない、
 或いは、
この検査・検品の厳しさを想像すらしていないから起こるのです。
 
 何故、昔ながらにノミだけを使って掘り進むのか、
それは、職人が、
これはと見込んだ原石の優れた石質部分が、
どちらへどれだけ拡がっていくのか、
一打ち毎に確認して、
貴重な原石の、秀逸な石層が拡がっていく、
可能な限り、その全てを、地上へ運び出すために、

そして、
人力だけが頼りだった、
石の余分な部分はできる限りそぎ落とし、
効率よく運び出さねばならなかった長い苦闘の歴史が
今も、
次のノミの強さと方向を見極めさせるのです。


老坑坑奥の採掘工


坑底から運び上げた老坑原石を
すぐその場で検査する

 旧入口から採掘した水帰洞、又は、それに匹敵する新入口から入坑して採掘した原石の氷裂紋の一部を、
  「ノミの衝撃で入ったひび割れだが、そのひびに、美しい修飾語である氷裂紋というような言葉を用いて硯にすることを許している」
などとしている向きもありますが
これらは全くの誤解で、老坑の本質も、検査の実情も充分理解していない、或いは、
机上の知識と通り一遍の調査で全部判ったと安易に判断した結果から生じた言えます。  



−氷裂紋−
 この氷裂紋などの様々な石紋は、原石が形成された数億年前の堆積物などの痕跡で、
悠久の時が育てた、地球からの贈り物、大地の芸術品なのです。

 昔は、灯明の明かりが頼りで、光度と空気の問題が大きく、採掘は困難を極めました。
 現在は、二回線の電線が導入されていて、もし一回線に異常が起きても、光源は確保されるようになり、安心して仕事に集中できます。
 コンプレッサーなどで、新鮮な空気を送り込むような設備はまだ(2000年)計画もありませんが、これらが導入されると、作業時間も伸び、長い歴史の間に採掘された最高の石材より、もっともっと 良質の原石が見つけられるかもしれないとの希望を持たせてくれます。

(補足:1999年2月頃、コンプレッサーなどで新鮮な空気を強制的に送り込まなくても、旧入口からの最深部と新坑口からの斜坑のほぼ底の部分が大きくつながったことで、新坑口と旧坑口の間に空気の 循環が始まり自然換気で充分新鮮な外気が導入されるようになりました。
 しかし、これは新坑口からの斜坑の坑底直前の接続部までで、さらにその奥の下部にある採掘現場へは、ここから送風機等で空気を送る、又は 入れ替える方策を考えなければならないと思います。精神的なものが原因かも知れませんが、私は、皆様をご案内する度に、採掘現場である最深部に20分もいると少々息苦しく感じました。)

次(旧坑と水位)へ
「 端渓のまことを伝えたい 」のトップへ